第97回 『そして、自分への旅』森本哲郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
森銑三(1895-1985)、
柴田宵曲(1897-1966)
の両碩学が書物、読書、出版について蘊蓄を傾けた随筆集
実は、論評を書こうとしてズルズルと半年経ってしまった
書く気はあるが一歩が踏み出せないでいる
言い訳できずにモヤモヤしていたら、森銑三さんが代弁してくれた
焦らずに発酵するまで待っている
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「著者から見た自著」(森銑三)
新しい計画を立てるのは、何事に依らず楽しい。新しい著述を計画することもまた楽しい。
しかしその執筆にかかると、なかなか腹案通りには進まない。予期しなかった疑問に次々と逢着したりして、それを何とか解決しながら書き進めていくのが容易でない。
時には行き詰まったままで日を経るうちに、他にまたかからねばならぬものが出来たりして、頭を転じでもすると、いっそう取り付きが悪くなり、興味もしたがって去って、出来かけの原稿を中途で抛擲してしまったりする。
古来の著述家にも、そうした流産した著述が無数にあることであろう。
大著述にはそれだけ気根を要する。それで私などは、近頃はあまり大きな題目と最初から取り組もうとしないで、なるべく一気に起草せられるものばかりをつい書いている。
そして著述といえば、それらの旧稿を集めて多少の整理を加えたものばかりを世に問うことにしている。しかし、身の程も知らずに、大きなものを企画して、部分的には人の研究をそのまま借用して、叙述を進めていくよりは、短くてもどこまでも自分のものになりきっているものを書く方が、まだ意義があろうと私は思っている。
そして今度の集には何と何とを収めようか。書名は何とつけようかなどと考えているのはやはり楽しい。