読書逍遥第213回 『オランダ紀行』(その2) 街道をゆく35 司馬遼太郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
日本の18世紀は今日から見て、まことに面白い文化人・画家に満ち満ちている。
貝原益軒 新井白石 荻生徂徠 本居宣長 三浦梅園 本多利明 尾形光琳 上田秋成 与謝蕪村 菅茶山 池大雅 伊藤若冲
曾我蕭白 鈴木春信 鳥居清長 鶴屋南北
平賀源内 喜多川歌麿
など錚々たる名前が並ぶ
⭕️湯上りや世界の夏の先走り 李山
注: 平賀源内(1728-1780) 号:李山
当時の人々のいう「天下泰平」あるいは「御静謐」、今日の私の呼んでいう「徳川の平和(パックストクガワーナ)」の、そのただなかの日本列島に、一体なぜあれほどの大量の独創的な、風変わりな、知・情・意それぞれにおいて、力量ゆたかな、一言でいえば面白い人物が西にも東にも輩出しえたのか。
その事実はそれ自体、現代の日本にとってもきわめて興味深い問題たりえよう。
21世紀の日本が文化の面でも、なお世界に誇りうるものを持っているとすれば、その多くはむしろ、この錯国下の18世紀人たちの仕事に負うている、とさえいえるほどではなかろうか。
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夏目漱石は、司馬江漢随筆集に読み耽っていたらしい。明治24年8月3日、盟友正岡子規に宛てて「古人に友を得たる心にて愉快に」と書いた。
「司馬江漢の春波楼筆記を読み候が、書中往々小生の云わんと欲することを発揮し、意見の暗合する事間々有之。図らず古人に友を得たる心にて愉快に御座候」