読書逍遥第133回 『木枕の垢』(その2)安東次男著
冨田鋼一郎
有秋小春
白河領は奥州の玄関
北方仙台の伊達氏五十九万石や南部氏二十万石は独立性の高い藩でいつ南下して江戸を脅かさないともかぎらない
「おくのほそ道」
白河にて
心許なき日かず重るまゝに、白川の関にかゝりて旅心定りぬ。、、、
秋風を耳に残し、紅葉を俤にして、青葉の梢猶あはれ也。卯の花の白妙に、茨の花の咲そひて、雪にもこゆる心地ぞする。古人冠を正し衣装を改し事など、清輔の筆にもとゞめ置れしとぞ。
○卯の花をかざしに関の晴着かな 曾良
須賀川にて
「白河の関いかにこえつるや」と問。「長途のくるしみ、身心つかれ、且は風景に魂うばゝれ、懐旧に腸を断て、はかばかしう思ひめぐらさず。」
○風流の初(はじめ)やおくの田植うた
☆☆☆
→陸奥は都びとのあこがれの地
平安期以来、みちのくの山河は風雅の源泉
「宮城野」「信夫(しのぶ)捩摺(もじずり)」
「名取川」「安積の沼」
「宮城野」
秋草の野をおもい、萩咲きこぼれるあわれさを思い、さらにははるかに野を吹きわたる陸奥の風をおもう
「信夫(しのぶ)捩摺(もじずり)」
千々にみだれる恋の心にイメージを重ねる乱れ模様の絹布
「名取川」
陸奥(宮城県を東流して仙台湾にそそぐ)の川というだけで、詞華になった
「安積の沼」
今の郡山市。沼に咲く花菖蒲に似た花を″花かつみ″と呼んで珍重した
○陸奥(みちのく)のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れんと思ふわれならなくに(古今集)
○陸奥にありといふなる名取川なき名とりては苦しかりけり(壬生忠岑)
○都をば霞とともにたちしかど秋風ぞ吹く白河の関(能因法師988-1050?)