読書逍遥

読書逍遥第346回『ぼくの哲学日記』(その3) 森本哲郎著1999

冨田鋼一郎

『ぼくの哲学日記』(その3) 森本哲郎著1999

著者の蕪村「梅」鑑賞の仕方には、教えられることが多い

森本哲郎氏は第一級の詩の鑑賞家だと思う

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⭕️散たびに老ゆく梅の木末かな

ゴツゴツと黒ずんだ梅の幹。梅も老いたのであろう。しかし、「老ゆく梅」は、どことなく床しい。
人間も何かひとつ仕事をするたびに老いてゆく。僕も原稿用紙一枚を書くごとに老いを深めるように思える。

蕪村は一句を吐くつど、絵を一作描き上げるたびに老いてゆく自分を、あらためて感じたに違いない。

この句には、そんな作者の姿がありありと映っている。

⭕️梅折て皺手(しわで)をかこつ薫(かほり)かな

梅の一枝を折って手にすると、花の香が皺を刻んだ手に移って、その皺手にしみじみと老いを実感する、というのである。

かこつとは嘆くの意だが、その嘆きには、同時に充足感も込められているのではなかろうか。

老いとは、充足することでもあるからだ。若い頃には、決して感じることもなかった、というより、味わい得なかった人生の充実感である。

[若き蕪村の梅図]
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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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