読書逍遥第271回『中国・江南のみち』(その1) 司馬遼太郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
「仁淀ブルー 底に光の網」
日本一美しい川と言われる四国の仁淀川
表紙の写真は、仁淀川の川底に映し出された光の網
輝きながらゆらめく
幻想に引き込まれそうになる
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四国の仁淀川を旅した。
河原の丸い石を踏みながら、青流に近づいてみた。水の色は、仁淀ブルーと呼ばれ、神秘的なまでに澄み切った青。
カミキリムシにせよ、フェルメールにせよ、ことのほか青色が好きな私にとっては、心が洗われるような流れだった。
深い森林に覆われた仁淀川の源流に注ぎ込む水は、長い年月をかけて土壌中で濾過されるため、透明度が高い。
水が多く見える理由のひとつは、光が通り抜けるあいだに、波長の長い赤などの光が吸収され、波長の短い青が残っていくからである。
流れを見つめていると、もう一つ素敵なことに気づいた。透明な水を通して見える川底に、光の網が映し出され、その網が、細く輝きながら震えているのだった。見ていて飽きることがない。こんな光の気まぐれにもちゃんと名前がついている。コーティクスという。
身近な例は、ワイングラスを傾けたときにわかる。角度によってテーブルの上に落ちた光がハート型になったり、ダイヤモンド型になったりして揺らめく。
これはワインの水面から反射した光がグラスの曲面に照らされて集合した図形。仁淀川の波は無数のワイングラス。それがつながって光の網をつくる。
絶え間なく姿を変える紋様は、私に『方丈記』の冒頭を思い出させた。ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。それは私たちの命の隠喩でもある。