読書逍遥第313回『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その11) 森本哲郎著 2000年発行
冨田鋼一郎
有秋小春
「美の起源 生命と結びつく青」
青という色が好きだ。
ヒマラヤの高地で咲くケシ。小さな宝石のような斑猫の紋様。フェルメールがラピスラズリという石を砕いて描いた少女のターバン。ニューヨークの高くて澄んだ空。
青は不思議な色だ。
見渡せば青はどこにでもある。海の青、山の青、空の青。しかしそこから青色を取り出してきて、白い布を青く染めることはできない。
水をすくっても、どれだけ空気を集めてもそこに青はない。
なぜなら、海の青や空の青は、青い色素がそこに溶けているわけではなく、液体や気体の作用によって青い光が選び出されているから、そう見えるだけ、つまり物質ではなく現象として青い。
青く輝くモルフォ蝶から青を取り出そうとして翅をすりつぶすと、そこに残るのは黒い粉となる。翅には薄いガラス状の層があり、青い光だけが反射する。これもまた現象としての青、構造色である。
実は青は特殊な色だ。
赤や黄や緑に比べて、エネルギーが格段に強い。生命がまだ小さな単細胞として太古の海に漂っていた頃、深い水の中で最初に感知したのは青色だったはずだ。青が光の方向を教えてくれた。彼らは青に向かって必死に泳いだ。だから私たちは青を美しいと感じるのではないか。
生命にとって必要なものこそが美。水の青。空気の青。美の起源は、生命と直接結びついている。