読書逍遥

読書逍遥第331回『南蛮の道』(その3) 司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

『南蛮の道』(その3) 司馬遼太郎著

イベリア半島において簡潔で卓抜な文章を書き留める

「リスボン特急でマドリードからポルトガルへ」

「茶道の起源」

「ポルトガル語から転じた日本語」

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リスボン特急は、ヨーロッパ大陸が最西端で尽きるところまでゆき、レールが終わったところが、盛り上がるような大西洋の水なのである。

そこから歴史上のポルトガル人たちは海へ出て行って世界史を変えたし、今もかれらはリスボンから世界へ出てゆく。

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日本の文化の南蛮からの影響ということになり、やがて茶道のことになった。

茶道は、いうまでもなく中世末期に堺の貿易商人のあいだで成立したもので、サロンのつどいというものを、構成から内容まで徹底的に芸術化した。

こういう芸術表現は、似たものさえ世界にない。

そこに絵画があり、茶碗その他の立体的な造形があって、それらを賞美し、また亭主と客が、和敬静寂という心を表現するにふさわしい所作をする。所作という点では、ほのかながら演劇的である。

場所は、狭くなくてはならない。道具は、本来遠く舶載されてきたものでなければならなかった、と私は思っている。客たちは、大航海時代の真っ只中にいる。

道具を眺めたり、茶碗に唇をつけたり、手に取ったりするときに、四畳半という、極端に小さく制限されたタブローの中にあって、万里の波濤を感ずる。

いわば、狭い茶室に地球が押し込められ、波がみちみちている。さらには諸道具から中国、朝鮮、交趾(コーチン、ベトナム北部)、南蛮といった諸文明を想像してたのしむというのが、初期の堺の茶というものではなかったか。

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ポルトガル語から転じた日本語の例

ベランダ、メリヤス、ビロード、ラシャ、マント、サラサ、カッパ、オルガン、タバコ、カルメラ

もしこれらの名詞が日本語からなくなると、日常生活に支障きたすほどであり、私どもが戦国期に入れた南蛮文化がいかに大きなものであったかがわかる。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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