読書逍遥

読書逍遥第328回『河童』短編小説 芥川龍之介著

冨田鋼一郎
[水虎暁帰之図 我鬼酔墨] 芥川龍之介筆
岩波書店『芥川龍之介全集』初版表示見開き

『河童』短編小説 芥川龍之介著

1927年は芥川龍之介最晩年、生涯の総決算の作品と言われる

芥川 龍之介(1892-1927)
号澄江堂主人、俳号我鬼(がき)。7月24日は河童忌

河童の世界では、人間のように両親の都合で産まれてくるのではない。

産まれるのを望むのか否か、本人の意志を確認している、というのが面白い

混迷する少子化問題への強烈な問題提起とも捉えることができる

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僕はある時、河童の医者チャックと産児制限の話をしていました。するとチャックは大口を開いて鼻メガネの落ちるほど笑い出しました。僕はもちろん腹が立ちましたから、何がおかしいかと質問しました。

なんでもチャックの返答は大体こうだったように覚えています。

「両親の都合ばかり考えているのはおかしいですからね。どうもあまり手前勝手ですからね」

そのかわり我々人間から見れば、河童のお産位、おかしいものはありません。現に僕はしばらく経ってから、バックの細君のお産をするところをバックの小屋に見物にゆきました。カッパもお産するときには我々人間と同じことです。やはり医者が産婆などの助けを借りてお産をするのです。けれども、お産をするとなると、父親は電話でもかけるように母親に口をつけて、お前はこの世界へ生まれてくるかどうかよく考えた上で返事しろと大きな声で尋ねるのです。

細君の多少気兼ねでもしているとみえ、こう小声で返事をしました。

「僕は生まれたくはありません。第一、僕のお父さんの遺伝は精神病だけでも大変です。その上、僕は河童的存在を悪いと信じていますから」

[牛くの河童 浪花四明筆] 蕪村筆
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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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