読書逍遥第324回『南蛮の道』司馬遼太郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
1927年は芥川龍之介最晩年、生涯の総決算の作品と言われる
芥川 龍之介(1892-1927)
号澄江堂主人、俳号我鬼(がき)。7月24日は河童忌
河童の世界では、人間のように両親の都合で産まれてくるのではない。
産まれるのを望むのか否か、本人の意志を確認している、というのが面白い
混迷する少子化問題への強烈な問題提起とも捉えることができる
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僕はある時、河童の医者チャックと産児制限の話をしていました。するとチャックは大口を開いて鼻メガネの落ちるほど笑い出しました。僕はもちろん腹が立ちましたから、何がおかしいかと質問しました。
なんでもチャックの返答は大体こうだったように覚えています。
「両親の都合ばかり考えているのはおかしいですからね。どうもあまり手前勝手ですからね」
そのかわり我々人間から見れば、河童のお産位、おかしいものはありません。現に僕はしばらく経ってから、バックの細君のお産をするところをバックの小屋に見物にゆきました。カッパもお産するときには我々人間と同じことです。やはり医者が産婆などの助けを借りてお産をするのです。けれども、お産をするとなると、父親は電話でもかけるように母親に口をつけて、お前はこの世界へ生まれてくるかどうかよく考えた上で返事しろと大きな声で尋ねるのです。
細君の多少気兼ねでもしているとみえ、こう小声で返事をしました。
「僕は生まれたくはありません。第一、僕のお父さんの遺伝は精神病だけでも大変です。その上、僕は河童的存在を悪いと信じていますから」