日々思うこと

父の残した膨大な短歌ファイルを繰る(その9)

冨田鋼一郎

どのページの歌をみても、親父の面影、息遣いを感じる

2週間で便箋一枚に歌が埋まる(最初は鉛筆で、途中1988年からワープロになる)

びっしりと短歌が書かれた便箋を手渡されたときに、どうして感想を伝えることが出来なかったのか

毎日一首のペースを50年も続けたことに驚き

77歳当時の1992年からいくつか

○平凡も幸せとこそ年の世の
  妻に感謝の言葉を述ぶる
      (1992.1)

○同期生の訃を又聞きぬ定めとて
  欠けゆくあとさき知るべくもなく
      (1992.6)

○亡き祖父の盆栽愛ずる面影の
  矯めつ眇めつ眼鏡越しなる
      (1992.8)

○ 「終戦追想」
 俘虜に届く壊滅ニュースの浜松の
  我が家思えば言葉なかりき
      (1992.9)

○終戦は知るべくもなくジャングルに
  ビラ撒く敵機を訝りて見き
      (1992.9)

○秋空に水木の今年の仕上げとも
  固き粒実の朱を輝かす
      (1992.11)

○はしごなる妻が高枝鋏もて
  熟れ柿落とすよき日和なり
      (1992.12)

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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