読書逍遥

読書逍遥第320回『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その18) 森本哲郎著 2000年発行

冨田鋼一郎

『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その18)

日本の風

中世ヨーロッパは、風車の時代といってもいい。日本では水車はあっても、風車はないのは何故か?

おそらく、その理由は、二千以上もある風の名に秘められているのではあるまいか。

それは、日本列島を吹き渡る風が、かくも多様、複雑であることを語っているからである。

ちなみに、俳句歳時記を開いてみると、春夏秋冬を通じて、風を区別する数字の季語が挙げられている

東風に始まり、春一番、白南風(しらはえ)、青嵐、薫風、初風、やまじ、野分、やませ、空風から北颪(きたおろし)、凩(こがらし)に至るまで。

海に囲まれた日本列島には、背骨のように山脈が走っている。海から吹く風は山にぶつかり、峠を越え、谷を抜け、そのたびに向きや性格を変える。

山から吹き下ろす風は、向こう側と、こちら側で温度も湿度も一変し、さらに季節により、一日の時刻の推移によっても、絶え間なく変化するのである。

そのような風を利用するためには、当然、それだけ複雑な装置が必要となる。

日本人の知恵はついに風車に及ばなかったのだ。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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