第97回 『そして、自分への旅』森本哲郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
日本の風
中世ヨーロッパは、風車の時代といってもいい。日本では水車はあっても、風車はないのは何故か?
おそらく、その理由は、二千以上もある風の名に秘められているのではあるまいか。
それは、日本列島を吹き渡る風が、かくも多様、複雑であることを語っているからである。
ちなみに、俳句歳時記を開いてみると、春夏秋冬を通じて、風を区別する数字の季語が挙げられている
東風に始まり、春一番、白南風(しらはえ)、青嵐、薫風、初風、やまじ、野分、やませ、空風から北颪(きたおろし)、凩(こがらし)に至るまで。
海に囲まれた日本列島には、背骨のように山脈が走っている。海から吹く風は山にぶつかり、峠を越え、谷を抜け、そのたびに向きや性格を変える。
山から吹き下ろす風は、向こう側と、こちら側で温度も湿度も一変し、さらに季節により、一日の時刻の推移によっても、絶え間なく変化するのである。
そのような風を利用するためには、当然、それだけ複雑な装置が必要となる。
日本人の知恵はついに風車に及ばなかったのだ。