読書逍遥

読書逍遥第318回『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その16) 森本哲郎 2000年発行

冨田鋼一郎

『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その16)

琥珀の力=電灯

こんな記述を読むと、「四生」どころか、「五生」を生きている自分を思い重ねる

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琥珀の力=電灯

 秋近し!
  電燈の球(たま)のぬくもりの
  さはれば指の皮膚の親しき
(石川啄木「悲しき玩具」)

明治維新を境に生きた福沢諭吉は「一身にしてニ生」を得た、と述懐している。それほど世の中は変わったのだ。

しかし、昭和の初期、「国語読本」を読んで育った私(森本哲郎)にしてみれば、「ニ生」どころか「三生」と言ってもいいような気がする。

電車で通学し、ラジオにかじりついて双葉山の相撲に夢中になり、蓄音機から流れ出す歌に耳を傾けた少年時代。それがやがて戦争、敗戦のヤミの世界へと続き、そこから抜け出すや、テレビ、新幹線、自家用車の生活へ。さらにつづくコンピューター万能の現在の社会を考えるとき、私には自分の生涯が「三生」どころか、「四生」にさえ思えてくる。

ワットの蒸気機関が、産業革命の主役になって19世紀を拓いたのに対し、エジソンは電力の利用を開発して20世紀の幕を開いた。
石炭とちがい、目に見えない電気が、これほどの威力を発揮し、文明を一新させたことは、まさしく”魔法”のようにさえ思える。

実際、電気は魔法のように発見された。

紀元前6世紀頃、ギリシャの哲人ターレスは、琥珀を毛皮でこすると、藁のような軽いものを引きつけることに気がついた。しかし、その力が何であるかを知る由もなかった。

長い間不思議とされていたその正体を突き止め、それをギリシャ語の琥珀(エレクトロン)にちなんでエレクトリックと命名したのは、16世紀のイギリスの医師、W.ギルバートである。彼は摩擦電気や磁気を研究し、地球を巨大な磁石だと論じた?それでも、電力をエネルギーに利用するには、2世紀の歳月が必要だった。

1746年、オランダ、ライデン大学教授ミュッセンブルークがガラスのびん全面に錫箔を貼り、そこに電気を貯めるコンデンサー「ライデン瓶」を作るのに成功した。

以後、多くの科学者、技術者がさまざまにに、電気工学の道をたどり始める。けれど、19世紀の半ばまでは電気をエネルギーに利用する見込みは立たなかった。その困難を乗り越えたところにエジソンが立っている。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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