読書逍遥

読書逍遥第316回『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その14) 森本哲郎 2000年発行

冨田鋼一郎

『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その14)

廃坑となり、博物館化した町、ウェールズのロンダ渓谷

産業革命以後今日までの繁栄を支えてきた原点を垣間見る

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[わが谷は緑なりき]

ジョン・フォード監督映画「わが谷は緑なりき」1941

人間は、石炭と鉄によって、世界を一新し、社会の仕組みを変え、歴史を劇的に展開し、個々の人生までも変質させた。

むろん、それはけっして平坦な道ではありえない。新しいエネルギーの獲得、それによる技術の進歩は、人々に恩恵を施すとともに、その過程で過酷な試練を課すのである。

例えば、人口の都市集中だ。野や谷の緑の世界で暮らしていた人々たちは、産業の発展とともに都市へ流れ込み、18世紀末には、まだのどかな田園都市だったマンチェスター、バーミンガム、リヴァプールといった町々は百年足らずのあいだに、なんと人口十倍、十数倍の工業都市へと変貌したのだ。

イギリスの都市人口は、既に全人口の4分の3を占めるまでに至った。そしてその人口の多数を占める労働者たちの生活が、いかに悲惨を極めたものであったかは、エンゲルスの「イギリスにおける労働階級の状態」に克明に報告されている。

私はその”遺跡”を一見したいと思い、ウェールズへ向かった。ロンドンから列車でウェールズの首都カーディフへ。そこから映画の舞台とされたロンダ渓谷へ。

南ウェールズの炭鉱地帯は、東西約65キロ。そのなかに28の谷が刻まれている。その谷々に今世紀初めまで五百もあったという炭鉱が、今ではわずかニつを残すだけとなったという。1980年に閉山した廃坑のひとつが、炭鉱博物館として見物者を集めていた。

両側の黒い地層が、そのまま文明史を証言しているように思えた。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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