第93回『情動と理性のディープ・ヒストリー 意識の誕生と進化』ジョゼフ・ルドゥー著
冨田鋼一郎
有秋小春
19世紀前・中期の″ハドソン・リバー派”とは、ミレーが代表するフランスバルビゾン派に相当するアメリカ絵画の一派
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ポール・アンドラ教授(「ドナルド・キーン日本文化センター」3代目所長)のこと
アンドラさんの家に招待されたのは1985年。リビングルームの西窓の大きなガラス面が印象的だった。
西窓いっぱいにハドソン川が流れていて、対岸は全て草・灌木で縁取られていた。すでに陽が落ち、わずかな残光の中を青い舷灯を点じたタグ・ボートが、影のように遡上しているのを見て、息を忘れた。
ハドソン川が、これほど美しい川だったということに、初めて気がついた。たしかな岩盤で出来上がったマンハッタン島には、大厦高楼がひしめいている。
しかしその対岸は、アンドラ家の窓によって切り取られた限りにおいては、太古そのままの自然なのである。この川は、遠くカナダのモントリオールまでさかのぼることができる。
19世紀前半のアメリカの画壇に”ハドソンリバー派”というのがあり、画家たちはこの川をさかのぼって、自然を精密に描くことで神に近づこうとした。
私は、やがてアンドラ家の対岸の自然は、公園であることを知るのだが、それでも薄暮のハドソン川のおごそかな記憶を少しも損じない。