読書逍遥

読書逍遥第303回『ニューヨーク散歩』(その4) 司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

『ニューヨーク散歩』(その4) 司馬遼太郎著

19世紀前・中期の″ハドソン・リバー派”とは、ミレーが代表するフランスバルビゾン派に相当するアメリカ絵画の一派

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ポール・アンドラ教授(「ドナルド・キーン日本文化センター」3代目所長)のこと

アンドラさんの家に招待されたのは1985年。リビングルームの西窓の大きなガラス面が印象的だった。

西窓いっぱいにハドソン川が流れていて、対岸は全て草・灌木で縁取られていた。すでに陽が落ち、わずかな残光の中を青い舷灯を点じたタグ・ボートが、影のように遡上しているのを見て、息を忘れた。

ハドソン川が、これほど美しい川だったということに、初めて気がついた。たしかな岩盤で出来上がったマンハッタン島には、大厦高楼がひしめいている。

しかしその対岸は、アンドラ家の窓によって切り取られた限りにおいては、太古そのままの自然なのである。この川は、遠くカナダのモントリオールまでさかのぼることができる。

19世紀前半のアメリカの画壇に”ハドソンリバー派”というのがあり、画家たちはこの川をさかのぼって、自然を精密に描くことで神に近づこうとした。

私は、やがてアンドラ家の対岸の自然は、公園であることを知るのだが、それでも薄暮のハドソン川のおごそかな記憶を少しも損じない。

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冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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