読書逍遥第298回『文明の主役 エネルギーと人間の物語』森本哲郎著 2000年発行
『文明の主役 エネルギーと人間の物語』森本哲郎著 2000年発行
24年も前に、21世紀の文明のあり方について考えてくれていた。
急増する電力需要をどう確保するか、つまり、どのような手段で確保するかというエネルギーミックスの問題は重要だ。
だが、より大事なことは、何のためにエネルギーを使うのかだ。もっと意を用いなければいけない。
同じことを、森本哲郎は別の表現で述べている。
《科学技師の進歩は、「事実」の階段を登るのと並行して、「意味」の階段も登らなくてはならない》
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[あとがき(部分)]
宇宙が作られたのは約150億年前に起こったビックバンだったという。では、その莫大なエネルギーはどこから発生したのか。
わからない。ただ、時間も空間ももちろん光も物質もない「無」の揺らぎから爆発は起こった、とされている。
そのような状況は容易に想像できないが、いずれにせよ、「はじめにエネルギーありき」だったのである。
こうして創造された宇宙から太陽、地球も出現した。やがて、太陽の惑星である地球上に生命が誕生し、長い歳月を経た進化ののち、人間が登場する。そしてその人間が文明をつくりだす。
このような宇宙史から見ても、文明を形成させたものは、ほかならぬエネルギーだったといえよう。
だいいち、人間はもとより、一切の生物はエネルギーなしに生きていけないのだ。しかし、他の動物が、おのれの生命の保持と子孫を残すためだけにエネルギーを使うのに対して、「人間はパンのみに生くる」ことから、文化の創造へと歩みを進めた。
その知恵とは、いかに、より多くのエネルギーを獲得するか、手にしたエネルギーを何に使うか、ということだった。
私がこれまでたどってきたのは、文明を築くため、人間がどのように力というものを研究し、その資源を発見し、利用してきたか、の物語である。
そして、今新しい世紀を迎え、改めて考えねばならないことは、こうして人類が手にしてきたさまざまな力、すなわちエネルギーを何に使うか、という最も大事な、それでいて、つい忘れがちな目的である。
むろん、エネルギーを今後どのように確保していくかということが重要な課題であることはいうまでもない。
たしかに、それは急を要する深刻な課題である。が、文明興亡の歴史をふりかえると、文明を衰亡させ、ついに死に至らしめたのは例外なく、エネルギーの浪費であった。
戦争は、その最たるものだ。エネルギーは文明を発展させる「起動力」であるとともに、文明を滅亡へと向かわせる「破壊力」でもある。だから、その使い方いかんによって、生体はもとより、文明そのものを破滅と追いやるのである。
21世紀の文明を支えるエネルギー。20世紀に続いてその主役となるのは電力であろう。
電力なくして、もはや現代文明の維持することはできない。とすれば、その電気エネルギーをいかなる手段で確保するか、それを何に、どのような目的で利用するかが、人類の運命を決めると言っても過言ではない。
げんに、進行中の情報革命を推進させるのも、電力にほかならないではないか。
もしそれが戦争などという愚行に使われるとしたら、文明の行方に待ち受けているのは、確実に死である。
英知を持って、その恩恵を享受することに成功すれば、必ず人間に「希望(エルピス)」をという報酬を与えてくれるはずだ
エネルギーとは、まさしくパンドラの壺なのである。