読書逍遥第112回 『ホスピスが美術館になる日』横川善正著
冨田鋼一郎
有秋小春
雲南省昆明の少数民族の「イ族」について
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中国における少数民族は五十六種というが、それぞれの祖先たちは、長い歴史の中で低地に降り、その血液と文化を中国文明というるつぼの中に溶け込ませた。
逆に言えば、少数民族の固有文化こそ、文明と言う普遍性に昇華する以前の細片群だと思うのだが、漢民族はながくそのことを考えず、自分たちこそ華(文明)で、僻境に残って固有文化を持ち続ける集団は夷だと思い、華・夷は対立概念であるとしてきた。
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イ族のイは、「西南夷」の夷である。
「クンミン(昆明)とは、古くは民族名でした。それがやがて地名になりました。イ族の祖先です」
接待してくれる2人のお嬢さんの顔立ちは、日本人そのままで、それも可愛く品が良い。
イ族は、黒い色を尊ぶ。彼らは白い絹地のシャツに、胴衣(ベスト)を着ている。布は黒で、胸や肩に入っている軽やかな飾りの線が美しい。下はズボンである。頭には縁に飾りのある黒い帽子をかぶって、民族服としては、第一級のかっこよさを感じさせる。
娘の衣装というのは民族の花だと思った。ただ、どの少数民族も娘の衣装は形も装飾も一民族一種類で、多様ということは伝統として許されない。元来、自分の文化についての頑固さこそ、少数民族が多数民族に溶けることなく凝固を保ってきた唯一の理由であるかと思ったりした。