読書逍遥第237回 『フェルメールの帽子』2008(その4)原題 Vermeer's Hut ティモシー・ブルック著
冨田鋼一郎
有秋小春
[四川省成都]
四川省全体の面積は約56万平方キロで、スペインよりやや広い。人口は70百万人で、スペインの50百万人よりよほど多い。
成都盆地だけが平坦で、農耕も発展し、蜀漢という地方帝国の時代から多くの人口を養ってきた。
盆地の広さは我が国の茨城県がすっぽり入るほどだ。
沿道には、樹齢10年ほどのユーカリの並木がつづいている。清末にオーストラリアの公使が持ってきて植えたのが最初と聞いている。
並木の向こうは両側とも一望の野なので、わら屋根の家が多い。ときどき日本の東北や北陸に多い曲屋そっくりの農家もある。
農家のまわりには必ず竹藪が盛り上がっている。日本は竹の文化であると言われるが、四川省こそがその名に値いするのではないか。竹の種類はこの一省だけで日本より多く、百種類ほどもあり、利用法も多様である。
○わが屋戸のいささ群竹吹く風の
音のかそけきこの夕べかも
大伴家持
この四川の野に、浅い緑な班(むら)をつくって点在する群竹には、いささなものもあれば数戸を蔽って杜をなすようなものもある。