読書逍遥第187回 『細胞』(上・下)(その6)ジッダールタ・ムカジー著
冨田鋼一郎
有秋小春
蜀(成都)
四川省は、古来、巴蜀(はしょく)と呼ばれた。「巴」は現在の重慶を中心とし、「蜀」は現在の成都を中心とする。中国の奥地である。
山多く、水流も多い。天水をこの広大な山岳地域にたくわえ、あまたの急流をなして流し、やがて諸流が長江(揚子江)の水となって中国大陸をうるおしている。いわば中国大陸の巨大な水甕のような地である。
平地の漢民族にとって、蜀へは、行くのではなくよじのぼるのである。
前途には千山万岳が重なり、それらの断崖には道がなく、いわゆる「蜀の桟道」が架けられている。
断崖に棚をかけるようにして造られた道が桟道で、唐の詩人李白(701-762)も、
アア危キカナ、高キカナ
蜀道ノ難キハ、青天ニ上ルヨリモ難シ
と詩っている。