読書逍遥

読書逍遥第267回『嵯峨散歩、仙台・石巻』(その6) 司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

読書逍遥第267回『嵯峨散歩、仙台・石巻』(その6) 司馬遼太郎著

[千歳古人の心 多賀城のこと]

芭蕉や蕪村にとっても、奥州多賀城は辺境のあこがれの象徴だったはずだ。

「自然が人文に昇華する作用をこの奥州が果たした。多賀城そのものが、詩である」。

司馬遼太郎の得意な詩的な表現だ。

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多賀城は、八世紀の初め、北の蝦夷(えみし)に対する防柵として出現した。さらには奥州の鎮所として機能した。ついには、「遠(とお)の朝廷(みかど)」としての威容をもつにいたった。

奥州にあっては都のミニアチュアであり、都にあっては辺境への憧れの象徴だった。

奈良朝・平安朝の都人たちは、奥州の山河を愛し、その草木まで知識として知っていた。宮城野の萩で象徴されるように、草の名さえ詩になった。

このようにして、多賀城の周りの山河は、畿内以外における第一の歌の名所として育ってゆく。自然が人文に昇華する作用をこの奥州が果たした。多賀城そのものが、詩であるといえる。

芭蕉の多賀城の感動は「おくのほそ道」によって知られる。

「爰に至りて疑なき千歳の記念(かたみ)、今眼前に古人の心を閲(けみ)す。行脚の一徳、存命の悦び、羈旅の労をわすれて泪も落るばかり也」

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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