読書逍遥

読書逍遥第264回『嵯峨散歩、仙台・石巻』(その3) 司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

『嵯峨散歩、仙台・石巻』(その3) 司馬遼太郎著

「貞山堀」のこと

伊達政宗(1567-1636)のころ、仙台米を水上輸送するために掘った運河である。当初は、内川とか、堀川、あるいは御船引掘などといわれた。政宗以後も掘り続けられ、これによって仙台平野の諸川がヨコ糸としてつながれ、南はこの阿武隈川河口荒浜付近から、北はとぎれつつも、北上川河口の石巻付近まで至っている。

「貞山」とは、政宗の死後の諡名である。貞山掘と言う呼称は江戸時からあったわけではなく、明治初年の土木家が、江戸期日本に似つかわしからぬこの大業に驚き、運河の名を貞山掘と名付けたときに始まる。政宗がどういう人物であったかを知るには、まず貞山堀を見なければならない。

ここは海水が少し混じるために灌漑用水には使えない。純粋に運搬用運河として、これほど長大なものを政宗は掘り、沃土の果実を江戸に運んだのである。今はむろん運搬にすら使われていない。つまりは無用のものなのだ。

宮城県がこれを観光として宣伝することなく、だまって保存につとめていることは、水や土手のうつくしさでよくわかる。仙台藩の後身らしく、無骨で教養のある風儀が、そのことで察せられるのである。

蕪村筆「仙台」部分
蕪村が寛保三年(1743)に描いたこの仙台の米俵を運ぶ絵も、あるいは貞山堀かもしれない。
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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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