読書逍遥

読書逍遥第261回『叡山の諸道』司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

『叡山の諸道』司馬遼太郎著

若いころの蕪村の画号のひとつに「四明(しめい)」がある。比叡山の西の山頂の四明岳(しめいがたけ標高 839m)から取ったものだ。
関東遊歴時代の蕪村は、自分の出自は関西であることを明示したかったのだろう。

この記載があるかと本書を探ったが、見つからなかった。

代わりに、最澄と子規についての記述を見つけた。
二人とも”自分の人生の主題について電流に打たれ続けるような生き方”だったという。

著者の好みの一端を窺うことができた。

☆☆☆☆

最澄(767-822)の書は、空海を別格として、同時代人では橘逸勢(たちばなのはやなり)、嵯峨天皇とならべられる。

が、後者にはやや書芸意識がみられるが、最澄にはそれがなく、文章を書く必要上やむなく文字を書くという自然さがうかがわれる。

私はそういう意味で、明治の正岡子規の書が好きが、その系列の遠い先蹤に最澄の書があり、しかも子規は遠く最澄の書におよばない。

子規と最澄には似たところが多い。
どちらも物事の創始者でありながら政治性を持たなかったこと、自分の人生の主題について電流に打たれ続けるような生き方でみじかく生き、しかもその果実を得ることなく死に、世俗的には門流の人々が栄えたこと、などである。
書のにおいが似るというのは、偶然ではないかもしれない。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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