読書逍遥第260回『図書館には人がいないほうがいい』(その5最終) 内田樹著
『図書館には人がいないほうがいい』(その5最終) 内田樹著
著者らしい教育論
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[大切な「イノセンス」について]
イノセンスとは、無垢で、無防備であるという事。イノセンスであるときに傷を負うと、子どもは自己防衛をするようになる。
でも知的であるためには、ある種の無防備さが絶対必要なんです。自己防衛がしっかりしていて、どんな攻撃にも対処できる人が同時に知的であるという事はありえないんです。
知的であることは無防備であるということだからです。
「無防備になれる」ってものすごく高度な能力なわけです。その能力を涵養していくのが学校教育の、特に初等中等教育の仕事なんだと思います。
子供たちに「イノセンスでいいんだよ。無防備で構わないんだよ、無防備でいても誰も君を傷つけないから」って約束すること。
無防備に、イノセンスを保ったまま育った子たちって、大きくなってからすごくいい感じなんです。
金が欲しいとか、権力が欲しいとか、有名になりたいとかって思わないから。大人になってもイノセンスを保てる子って、と社会的承認をうるさく求めない。
ふつうにしていてもみんなから優しくしてもらえたという経験がある子は、何が何でも有名になりたいとか、何が何でも金が欲しいとか、人に屈辱感を与えることができるような立場になりたいとかって、思わないんです。
いまの子たちのほとんどがそっちにいっちゃってるのは、どこかでイノセンスを失ってしまったからなんです。
子供の顔見てそう思うでしょ。無邪気とか、無防備とかって今、ほんとに見なくなってしまった。
学校教育の仕事は、子どもたちの中にかろうじて残っているイノセンスをどうやって守ってあげるかということなんです。
無防備な人じゃないと、まったく新しいことって起こせないんです。ガチガチに自己防衛していて、かつ知的にイノベーティブな人なんてこの世にいません。