読書逍遥

読書逍遥第258回『図書館には人がいないほうがいい』(その4) 内田樹著

冨田鋼一郎

『図書館には人がいないほうがいい』(その4) 内田樹著

話題二つ
「読者と本の幸福な関係」

「電子書籍で本を読むか?」

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「読者と本の幸福な関係」

本に呼び寄せられること、本に選ばれること、本の「呼び声」を感知できること。それがたぶん本と読者の間に成立するいちばん幸福で豊かな関係ではないかと私は思う。

本が私を選び、本が私を呼び寄せ、本が私を読める主体へと構築する。

「私が本を読む」という考えは、いささか自己中心的な表現だと思う

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「電子書籍で本を読むか?」

電子書籍の最大のメリットは、いつでもオン・デマンドで、タイムラグなしにアクセスできるということ。

まさにそのメリットゆえに、私たちは電子書籍の選書において先駆的直感を必要としない。

電子書籍はスーパーリアルに「今読みたい本、読む必要がある本」を私たちに届けてくれる。

その代償として電子書籍はその本との宿命的な出会いという「物語」への共感的参加を読者に求めない。

電子書籍は実需要対応の情報入力源である。欲望も、宿命も、自己同一性も、そのようなロマネスクなものに電子書籍は用事がない。けれども、読書はしばしばそちらのほうに用があるのである。

口承が中心であった時代から、書きものに媒体が移ったとき、私たちの脳内で活発に機能していた「長い物語を暗誦する能力」は不要になった。

それと同じように紙の本から電子書籍に媒体が移るとき、書物と出会い、書物を読み進むために、私たちが必要としていた機能の「何か」が失われる。

紙の本はならないと私は思っているが、それはコストやアクセシビリティーや携帯利便性とは全く無関係な次元の、人間の本然的な生きる力の死活にかかわっている

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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