読書逍遥第257回『図書館には人がいないほうがいい』(その3) 内田樹著
『図書館には人がいないほうがいい』(その3) 内田樹著
[学校の図書館と司書の役割について]
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学校って、とにかくいろんな先生がいて、いろんな価値観を持っていて、一人一人先生の物差しが違うのがいいんです。
価値の尺度を測る物差しが違う人がいっぱいいるっていうのが、子どもの成熟にとって一番いいことなんです。
みんなが同じ価値観で律されている社会って、子どもにとっては本当に息苦しくって、そこでは生きられないし、成熟できないんです。だから学校に来なくなっちゃう。学校の中には、子どもたちが「とりつく島」が必要なんです。
保健室登校があるのは、そこは医療原理が支配する空間だからです。医療原理って、ヒポクラテス以来ずっと同じなんです。
相手がどんな身分の人間であっても、診療内容を決して変えてはいけない。医療は商品じゃないからです。相手によって医療内容を変えてはいけない。
必ず自分が提供できる最良の医療技術で診察を行うこと。医者になる人間は、それを誓うわけです。だから保健室は学校の中における異世界であり得るんです。そこでは自分たちは一切差別しないから。病んだ人たちを誰であれ受け入れて、癒してゆく。
それと同じように、やっぱり学校の中にもう一つぐらいあったっていいじゃないですか。異世界が。
図書室は異世界であっていい。そこでは少なくとも「知」っていうことに関しては、教室とは全然違う物差しのものが測られてる。
そこに行くと、深く呼吸ができるとか、ほっとするという子どもが一人でもいたら、それで僕は充分だと思うのです。その子を救うことができたんですから。
学校は嫌いだけれど、図書館には行ける。そういう固有のミステリアスな雰囲気を作ってほしいんですよ。
とにかく僕から先生方へのお願いは、みんな魔法使いのような雰囲気を漂わせて就業していただきたいです。校長に「何やってるんだ」と言われたら、「だって、私、魔法使いだし」って(笑)