読書逍遥第237回 『フェルメールの帽子』2008(その4)原題 Vermeer's Hut ティモシー・ブルック著
冨田鋼一郎
有秋小春
「三内丸山遺跡」
縄文時代、世界で一番食べ物が多くて、住みやすかったのが青森県だったろうということを、私も考古学者たちの驥尾(きび)に付してそう思い、いわば”まほろば”だったと考えてきた。
それが土中から現れようとは思わなかった。
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「ブナ林」
ブナ林は、初夏、光が湧くように美しい。
冬ごとに葉が落ち、林間があかるくなる。根方に厚い腐葉土がつくられてゆく。実は、人にとっても他の動物にとっても、食用になる。ドイツでは、ブナの森は”森の母”というそうである。
青森と秋田の両県にまたがるブナの森の白神山地は世界遺産に指定されている。
想像するだに楽しいことは、五千年前、東北地方一円がブナやミズナラの一大森林だったことである。縄文文化はその大森林の中ではぐくまれた。
なんといっても、ブナの森林は、その根方に大量の水をたくわえるのである。その水が細流になり、川になり、サケの遡上を促す。
ブナは、風倒木までが役に立つ。腐食した木に食用キノコが生え、倒れた木があけた大きな穴に、熊が冬眠する。人をふくめた生物のための″神の工場″のようなものである。
その森の中に今もマタギがいる。