読書逍遥

読書逍遥第253回『北のまほろば』街道をゆく(その3) 司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

『北のまほろば』街道をゆく(その3) 司馬遼太郎著

東北地方を「北のまほろば」とする。

冒頭を読みながら、18世紀中頃「奥羽行旅図」8図で蕪村が描いたみちのく風景をしのぶ。

@@@@

“まほろば”が古語であることは、いうまでもない。

日本に稲作農業がほぼ広がったかと思われる古代ーー5、6世紀ころだろうかーー大和(奈良県)を故郷にした人ーー伝説の日本武尊(やまとたけるのみこと)ーーが異郷にあって望郷の思いを込めて、大和のことをそう呼んだ。

語頭の「ま」にいとおしみが籠められている。「ほ」は秀(ほ)か。穀物の穂のようにツンと高く秀でているさま。だから高燥の地のことだ、という解釈もある。しかし高燥だと、自然の適地である条件に適いにくい。

私は、まほろばとはまろやかな盆地で、まわりが山波にかこまれ、物成りが良く気持ちの良い野、として理解したい。むろん、そこに沢山(さわ)に人が住み、穀物がゆたかに稔っていなければならないが。

 倭(やまと)は 国のまほろば
 たたなづく 青垣(あおかき)
 山隠(やまごも)れる
 倭(やまと)しうるわし

縄文時代には信じがたいほどに豊かだったと想像される。東日本全体が世界でもっとも住みやすそうな地だったらしい。

山や野に木ノ実がゆたかで、三方の海の渚では魚介が取れる。走獣も多く、また季節になると、川も食べ物の方から身をよじるようにしてーーサケ・マスのことだがーーやってくる。そんな土地は、地球上にざらにはない。

スポンサーリンク

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
記事URLをコピーしました