骨董品

加藤暁台筆「心われ」句玄久齋画幅

冨田鋼一郎

心われしてや二瀬に啼千鳥 暁台 印 「暮雨」

季:冬(千鳥)

何か心にわだかまりを抱えた冬の夕暮れ、ひとり川辺に出てふと空を見上げると千鳥の群れが二手に分かれて鳴きあいながら飛んでいる。あの千鳥達もお互いの気持ちを通じ合えないでいるのだろうか。千鳥の鳴き声にじっと耳を傾けている男の孤独な気持ちがひしひしと伝わってくる。絵も句にふさわしい満目蕭条たる風景である。「暁台句集」入集。画の作者、玄久斎不詳。

この句の眼目は上五「心われ」。

千鳥は鴫に似て嘴が短く、色彩は灰褐色。干潟や川や湖沼などにすみ、昼間は
遠く外海にあり、夜は渚近く来て飛びめぐっている。声は特異な哀調があり、ピョピョピョ、ピョイピョイピピピ、チュリーチュリー、ピュルピュルなどと聞こえる。

《解説》

暁台には“こころ”を用いた句が多い。江戸中期の俳人としては近代的感覚を持つ。江戸俳人としては、めずらしい。

次の「菫つめば・・」は、むしろ西洋詩人の感覚と似ている。

芭蕉の「よく見ればなにやらゆかしすみれ草」との違いに注目。

  • <春>
    • 菫つめばちひさき春のこヽろかな 暁台
    • こヽろほどうごくものなし春の暮 暁台
    • 切てやるこヽろとなれやいかのぼり 暁台 
  • <夏>
    • わかばして浮世に心うつり哉 暁台
    • 針の有こヽろに蓼のほそ葉哉 暁台 「蓼」
    • とりよれぬあぢさゐの花のこヽろやな 暁台
  • <秋>
    • 秋の水こヽろの上にながるなり 暁台
    • けふの月雲井の龍よこヽろあれ 暁台
    • 心からの雨も降らむ夜の秋 暁台
  • <冬>
    • 心われしてや二瀬に鳴ちどり 暁台
加藤暁台(かとうきょうたい1732-1792)

江戸中期の俳人。久村氏とも。別号暮雨巷など。名古屋の人。天明俳諧中興の士を以て任じ、二条家から花の下宗匠の免許を受けた。蕪村らと交流。桜田臥央編「暁台句集」がある。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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