冨田鋼一郎
3月10日今朝は予報通り雨だった。春の恵みの雨。紫陽花の若葉も沈丁花も生き生きしてきた。田中冬ニの詩を思い出す。
春 田中冬二
すぺいんささげの鉢を
外にだしてもよい頃になりました
今夜から明日の朝にかけて
太平洋の沿岸は
暖い雨になるだらうと
海洋測候所は報じてゐます
昭和3年の作品。
気象衛星はおろか、テレビもない時代。天気予報は測候所が頑張ってくれていた。
夜更け、時間はゆっくりと過ぎてゆく。居間の炬燵にいて、聴くともなくラジオに耳を傾ける。「潮岬では、南南西の風、風力3」。春を待つ詩人の心が伝わってくる。
我家には中学生になるまでテレビがなかったから、よくわかる。こんな風情は遠い昔になってしまった。
ABOUT ME
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。
各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。
著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)