清水比庵筆葉書「あたたかき」その1
冨田鋼一郎
有秋小春
絹本墨画着色
款記なし
印「号四明」(白文方印)
「長滄」(朱文方印)
署名はないが、印章から結城下館時代の蕪村が漢画修業中に描いたものと判明する。
前述した「春景山水図」と対になる「秋景山水図」だ。
遠景の岩山の盛り上がるような突き出たでっぱりはかなり誇張されている。
岩肌の茶褐色の皺や岩の塊の立体感を出す技法は、漢画の教科書「芥子園画伝」を熟読してすでに身につけていた。
中景にはお椀を伏せたような丘と赤い実のなる木々。
前景には渓流のせせらぎの音を耳にしながら馬に乗った人物が、小橋を渡り山奥に住む知人を訪ねる。まさに「寸馬豆人」だ。
家には友人を待つ家人がいるはずだ。風雅な歓談を楽しみにしている。
画面中央を横切る長い垣根。木々の枝の間から家屋が透けて見える。この辺りは、やまと絵の技法が取り込まれている。
後年の名作「奥の細道図巻」の馬に乗った芭蕉図や「野ざらし紀行」屏風に見える垣根の描き方にそっくりだ。