渡辺崋山筆画稿「魚を持つ漁夫画」その9
冨田鋼一郎
有秋小春
夜半から猫も杓子もおどりかな
四五人に月落かゝる踊かな
ひたと犬のなく町こへておどり哉
蕪翁の句 月渓 花押
夜も更けわたるころは、だれも彼もみんな踊りに夢中になっている。
宵のうちは大勢でにぎやかに踊っていたが、夜が更けるにつれ一人減り二人減りして、今は元気のよい四五人のみが一心に踊り続けている。折りからの盆の月が山の端へ落ちかかって踊り手の影を長く引いている。町々をめぐって夜が明けようとしている。
町別に踊りの組がある。自分の町からよその町へめぐる。三味線や太鼓を鳴らしながら踊りながらやってきた。犬がしきりに吠えたてる寂しい町を、次の踊りの場へと構わず押し通る熱狂的な踊りの群れ。<ひたと犬の>と字余りが、夜の深さを感じさせる。どこか人生の遍歴に似ている。
蕪村は踊りの句が多い。みずから踊るより、人の踊るのを眺めているのが愉しかったのであろう。月渓による踊りにふける男女の姿態は、師蕪村ゆずりの入神の筆さばきで、盆踊りの興奮を伝えてあまりある。
江戸中期の絵師。