中村屋サロン美術館「コレクション展」
冨田鋼一郎
有秋小春

夜もふかくさのほとりを過ぎて
きつね火と人や見るらん小夜しぐれ 蕪村
京都山城の深草は、狐にゆかりの地
“お稲荷さん”と親しまれる伏見稲荷大社は、全国に約3万社ある稲荷神社の総本宮
平安遷都よりも古く、和銅4年(711)の創建
商売繁昌・家内安全のご利益があるとされる
深草元政(ふかくさ げんせい)(1623-1688)
人物:日蓮宗の僧侶。 彦根藩の武士、後に山城の深草に住む
日蓮宗の宗学者、教育者、漢詩人、歌人、能書家
「深草元政」の由来:深草に住し、瑞光寺を開山したことから「深草元政」と呼ばれる
桃花
桃花開谷口 桃花、谷口に開く
黄鳥囀花枝 黄鳥、花枝に囀る
花発不言妙 花は不言の妙を発し
鳥吟無字詩 鳥は無字の詩を吟ず
谷静大地嚝 谷、静かにして天地嚝し
春日一何遅 春日、一に何ぞ遅き
眼看浮雲尽 眼に浮雲の尽くるを看る
水流無息時 水、流れて息む時無し
花影落霞晩 花影、落霞の晩
欲帰立水湄 帰らんと欲して水湄に立つ
桃の花が、霞谷の入り口である谷口というところに咲き誇っている。鶯(黄鳥)が、その花の枝で囀っている。花はものを言わないけれども、言わずして一切を語るという妙を発揮し、鳥は囀って、音のみの文字によらない詩を吟じている。この谷は静寂で、私は果てしない宇宙の広がりの中にいるようだ。春の一日はただでさえ長いのに、この谷にいると、ひとえに時間の悠久さが感じられる。目にはそれに浮かんでいる雲が消えてなくなるのを見届け、水は絶え間なく流れ続けて尽きるところがない。桃の花のシルエットが夕焼けの空に映える夕暮れになって、ようやく帰らなければいけないという思いになり、腰を上げて、水際に立った——。
[エゴノキ]