読書逍遥第361回『古句を観る』(その1) 柴田宵曲著
冨田鋼一郎
有秋小春

国民国家といわれるのは、夏目漱石、吉川英治、そして司馬遼太郎の三人
1971年1月、『街道をゆく』は「湖西のみち」からスタート。「近江」琵琶湖の西側、大津を20キロほど北上する
冒頭の文からして、平易にして詩的な名文だ
☆☆☆
「近江」というこのあわあわとした国名を口ずさむだけでもう、私には詩がはじまっているほど、この国が好きである。
京や大和がモダン墓地のようなコンクリートの風景にコチコチに固められつつあるいま、近江の国はなお、雨の日は雨のふるさとであり、粉雪の降る日は川や湖までが粉雪のふるさとであるよう、においをのこしている。
歴史を自在に往還しつつ、感傷にあらぬ「詩心」を背骨のごとくつらぬくという「街道をゆく」の基本的姿勢は、その第一回「湖西のみち」(「甲州街道、長州路ほか」所収)の第一ページ第一行から明白であり、以後もついに二十五年間余、揺るがないのである。