「蘇州(中国) 緑つづく道」 「森本哲郎の美しい文章と写真を味わうシリーズ」(その3)
冨田鋼一郎
有秋小春
若いときの蕪村の画号の一つを「四明(しめい)」という 「四明」は比叡山からとったもの
☆☆☆
叡山は高山ではない。南北に峰をつらねる土塁形の山である。琵琶湖側と京都側とでは、山容がまったくちがう。
西斜面である京都から見た叡山は、四明岳(しめいがたけ)で代表されているため、独立した山容のようにみえる。
それに草木がすくなく、山の地肌が赤っぽく透けてみえる。冬のつよい西風がもろにあたるせいと、東斜面にくらべて水を生みだす量がすくないからでもあるらしい。
これにくらべ、東斜面は緑のビロード地のたっぷりした裳裾(もすそ)を襞(ひだ)多くひいたようにして、ゆるやかに湖水にむかって傾いている。
樹叢のゆたかさはどうであろう。幾筋もの山脚のこころよい勾配、尾根と谷とがたがいに戯れるように組みあわされて、冬の西風から樹をまもり、かつは林間の僧房をまもっている。それに泉や谷川が多く、まことにいのちの山という感が深い。
(司馬遼太郎『街道をゆく夜話』)