比叡山(四明岳)

冨田鋼一郎

若いときの蕪村の画号の一つを「四明(しめい)」という 「四明」は比叡山からとったもの

☆☆☆

叡山は高山ではない。南北に峰をつらねる土塁形の山である。琵琶湖側と京都側とでは、山容がまったくちがう。

西斜面である京都から見た叡山は、四明岳(しめいがたけ)で代表されているため、独立した山容のようにみえる。
それに草木がすくなく、山の地肌が赤っぽく透けてみえる。冬のつよい西風がもろにあたるせいと、東斜面にくらべて水を生みだす量がすくないからでもあるらしい。

これにくらべ、東斜面は緑のビロード地のたっぷりした裳裾(もすそ)を襞(ひだ)多くひいたようにして、ゆるやかに湖水にむかって傾いている。
樹叢のゆたかさはどうであろう。幾筋もの山脚のこころよい勾配、尾根と谷とがたがいに戯れるように組みあわされて、冬の西風から樹をまもり、かつは林間の僧房をまもっている。それに泉や谷川が多く、まことにいのちの山という感が深い。

(司馬遼太郎『街道をゆく夜話』)

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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