日々思うこと

漱石『硝子戸の中』末文

冨田鋼一郎

『硝子戸の中』は、漱石の絶筆といわれるくらい透徹した文章である。その末文は、小道具として「鶯」を登場させている。印象深い終わらせ方だ。

漱石にとって、「鶯」とは?

☆☆☆☆

まだ鶯が庭で時々鳴く。春風がおりおり思い出したように九花蘭の葉をうごかしに来る。猫がどこかでいたく噛まれたこめかみを日にさらして、あたたかそうに眠っている。さっきまで庭で護謨風船を掲げて騒いでいた子供たちは、みんな連れ立って活動写真へ行ってしまった。家も心もひっそりしたうちに、私は硝子戸(ガラスど)を開け放って、静かな春の光に包まれながら、うっとりとこの稿を書き終わるのである。そうしたあとで、私はちょっと肘を曲げて、この縁側に一眠り眠るつもりである。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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