読書逍遥

読書逍遥第580回『私の文章作法』1971刊(その1) 清水幾太郎著

冨田鋼一郎

『私の文章作法』1971刊(その1) 清水幾太郎著

毎日糸を紡いでいくように、言葉を選びながら文章を綴っていく。少しずつ布が織られていく。ピースを埋め込んでいく作業に飽きるとブラブラ散歩する。

気になって清水幾太郎(1907-1988)の『私の文章作法』を手にする。ひとつひとつの指摘が思い当たる。

文章を書くとはどういうことか、何に気をつけるのか

[文章を書くとは、混沌との戦い]
[精神が混沌を組み伏せること]
[他人の精神の働き方を真似する]

人の心の中は、いろいろな観念が相互に衝突しながら同居しています。いろいろな思いがぶつかり合っている状態、これを混沌といいます。

混沌は生命の泉です。すべての美しいものは、この生命に満ちた混沌の中からのみ生まれてきます。

しかし、それが生まれるのには、私たちの精神が混沌に手を加えなければなりません。精神が混沌を組み伏せねばなりません。

文章を書くためには、順序(秩序)、取捨選択(選択の基準)が求められる。順序と取捨選択は精神が混沌に押し付けるものです。

自分の好きなスタイルの持ち主の真似をしてみよう、と私は申しました。しかし、本気で真似するとなると、もう文字や言い回しの真似では済まなくなります。「精神の真似」をすることになるのです。

精神の真似というのが変なら、考え方の真似と言い直しても良いでしょう。つまりその人の文章を真似しているうちに、その人が混沌にどういう秩序を押し付けるか、どういう選択の基準を押し付けるか、その流儀というか、方法というか、それを真似するようになるのです。その人の精神の働き方を真似するようになるのです。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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