日々思うこと

(お茶うけに:10)

冨田鋼一郎
画:谷山彩子

「庭の柿の木を見ていると」
中島京子氏

事件だらけの新聞紙面に、こんな身辺エッセイが載るとほっとする。

2025年2月1日 朝日

 庭に柿の木がある。
 昨年は柿が豊作と聞いていたのに、我が家の柿の実は数えるほどで、それもみんな、鳥に食べられてしまった。
 実がならなかったのではなくて、夏にすごい勢いで実をつけたのが、あまりの暑さに、秋を迎えないうちに茶色っぽく変色して落ちてしまったのだ。

(中略)

 すっかり坊主になってしまった柿の木に、今年はおすそ分けをしてみた。
 柿の枝の短く折れたところへ、柿をぶつっと突き刺しておいたのだ。
 木守り柿というのは、本来は、収穫せずに一、ニ個、木に残す風習だが、以前、植木屋さんが小鳥のために、採った実をいくつか枝に刺しておくのを見たことがあったので、好奇心から真似してみたのだ。
 果たして鳥たちは順番にやってきた。
 おもしろいのは、一回に来るのは一種類の鳥で、そしてつがいで訪れることだ。
 一羽が来ると声を上げてもう一羽を呼ぶらしい。しばらくすると、ニ羽目が近くに来る。あるいは二羽が同時に、ひらりと降立つこともある。
 ただし柿の実をつつくのは一羽のみで、二羽がいっしょにというのはマナー違反かなにからしい。一羽が満腹するまで食べるのを、もう一羽はわりと近くの枝で見守っていて、席が空いたら柿の実の横に陣取るのだ。
 中には辛抱の足りないのがいて、食べている鳥の横に、催促するようにやってくる。そうすると、仕方がないなと言いたげに、今まで食べていた方が席を譲る。このあたりの力関係がどうなっているのかは、わからない。長いこと食べていたのが飛び去って、もう一羽がやっとありいたと思ったら、また最初の一羽が戻ってきて、もう一羽のほうが遠慮するように場所を譲ったりもする。
 鳥の順番としては、ヒヨドリ、メジロ、シジュウカラの順だった。
 大きいほうに優先順位があるのだろうか。
 しかし、鳥たちがもっと多く立ち現れるに違いない早朝は、こちらは寝坊しているので観察していない。鳥の大きさの順番は、たまたまかもしれない。
 鳥の種類は違っても、つがいであらわれるのは同じで、微笑ましい。おいしいものをひとり占めしたいとは、鳥は思わないものなのか。

(中略)

 そんなことを考えながら、庭の柿の木を見ていると、あっという間に時間が過ぎる。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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