日々思うこと

芸術品とは何か「ライオンマン(人間)」で考える

冨田鋼一郎

「ライオンマン(人間)」は、人間の作った芸術品として最古のものとされる

南ドイツのドナウ川沿いのシュターデル洞窟で発見された

およそ3万2千年前の象牙(マンモス)彫りで、頭部はライオンだが、体は人間(男女の区別について議論あり)

実際には存在しないものを想像する人間の心の能力を裏付ける議論の余地のない例

人類の農耕牧畜革命は1万2千年前であるので、それよりはるか2万年も前のもの

当時は一族で洞窟に住み、日々狩猟採取に明け暮れる暮らしだったはずだ

この「ライオン人間」のような「生き延びるためには何の役にも立たないもの」に時間を割く余裕はなかったはずである

では何のために「ライオン人間」を作ったのかははっきりしていない
宗教的意味があったのかもしれない

はっきりしているのは、人間が”現実に存在しないもの”を想像する力を有していたこと、これが他の動物と決定的に違うことの証となる

何の役にも立たず、それこそ「絵に描いた餅」だったのでほんものの餅の方がはるかに価値があった

今では芸術品とは、「生き延びるためには何の役にも立たないもの」ではない

餅よりも絵に描いた芸術作品(例えばルノアールが描いた餅?)の方がはるかに価値がある
隔世の感がある

「あらゆる芸術の士は、人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊い」(漱石「草枕」)

になみに、古代エジプトのスフィンクスは、同じく人獣合体だが、違うのは胴体がライオンで人頭をもった怪獣である
これは時代ははるか下って、わずか5千年ほど前になる

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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