読書逍遥

読書逍遥第494回『すべての道は、ローマに通ず』(上下) 塩野七生著

冨田鋼一郎

『すべての道は、ローマに通ず』(上下) 塩野七生著

ハードなインフラとは、街道・橋・水道
ソフトなインフラとは、医療教育

あれほど堅牢な街道・橋・水道を張りめぐらせた首都古代ローマには、なぜか医療・教育のソフトインフラがなかった

下巻は、ソフトなインフラ(医療・教育)に話を移す 

医療は、家庭医療と神頼みの二つ
家父長の役割は、家族のみならず農園内でで働く奴隷の健康にまで配慮する事

医療担当の神々は「蛇が巻き付いた杖」を持つ

ローマ医療を革命的に変革したのは、ユリウス・カエサルである。

共和制であったローマを帝政に移行させつつあったのがカエサルだが、医療と教育システムの創設に関しては、国家がコントロールするやり方を採用していない

つまり、医療と教育を「公」の担当分野としていない。ただし、「私」が活躍できる基盤づくりを整えることは忘れなかった

カエサルは、独裁官(デクタタール)に就任して、皇帝(インペラトール)への第一歩を踏み出した初年であるBC46年に「ユリウス暦」の制定をはじめとする多くの改革に着手するが、これらの改革の一つが、医師と教師にローマ市民権を与えることだった

条件はただ1つ、首都ローマで、医師は医療に、教師は教育に従事することである

人種も肌の色も出身地も社会的地位も一切問われず、もちろん信じる宗教の違いも不問

カエサルの意図は、さらに多くの優秀な医師がローマを目指すようになることであった

ローマ市民権の取得は、ローマ法によって守られる立場になるということ

私有財産は完璧に保護されており、裁判で有罪になったとしても、控訴権を行使できることなど、ローマ法のもとにある方が断じて有利であった

二千年昔のローマ人であるユリウス・カエサルは、法的にも税制上でも、他の多くの面でも医師と教師を優遇する。

公的な機関を設立し、それによって医療や教育の水準の向上に努めるのではなく、医師や教師たちを自由市場に放り出したのである。

結果としてローマを目指す医師や教師の数は激増した

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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