読書逍遥

読書逍遥第477回『こころの処方箋』(その2) 河合隼雄著

冨田鋼一郎

『こころの処方箋』(その3) 河合隼雄著

「自立は依存によって裏付けられている」

 「自立」と「依存」は対立語ではない

幼稚園の子どもで言葉がよく話せないということで、母親がその子を連れて相談に来られた。知能が別に劣っているわけでもないのに、言葉が極端におくれている。

よく話を聞いてみると、その母親は、子どもを「自立」させることが大切だと思い、できる限り自分から離すようにして子どもを育てたとのことである。

このようなとき、その子の自立は見せかけだけのものである。親の強さに押されて、辛抱して一人で行動しているだけで、それは本来的な自立ではなく、そのために言葉の障害などが生じてきている。

自立ということを依存と反対である、と単純に考え、依存をなくしていくことによって自立を達成しようとするのは、間違ったやり方である。

自立は、十分な依存の裏打ちがあってこそそこから生まれて出てくるものである。

子どもを甘やかすと自立しなくなる、と思う人がある。確かに、子どもを甘やかすうちに親の方がそこから離れられないと、子供の自立を妨げることになる。

このような時は、実は親の自立ができていないので、甘えること、甘やかすことに対する免疫が十分にできていないのである。

親が自立的であり、子どもに依存を許すと、子どもはそれを十分味わった後は、勝手に自立してくれるのである。

自立といっても、それは依存のないことを意味しない。そもそも人間は誰かに依存せずに生きていくことなどできないのだ。

自立ということは、依存を排除することではなく、必要な依存を受け入れ、自分がどれほど依存しているかを自覚し、感謝していることではなかろうか。

依存を排して自立を急ぐ人は、自立ではなく孤立になってしまう。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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